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ガイドライン

慢性肉芽腫症に対する造血幹細胞移植ガイドライン

 慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease; CGD)は食細胞機能異常を原因とする, 原発性免疫不全症候群の一疾患である.乳幼児期より重症細菌・真菌感染症を反復し, 諸臓器に肉芽腫形成を伴うのが特徴である.予後不良で青年期までに大半が死亡するとされていたが, 抗菌療法の発達やインターフェロン・ガンマの導入,日常生活管理指針の策定などにより,患者予後は 改善している.
 従来,造血幹細胞移植は成績不良であったが,前処置法,移植後管理や支持療法の進歩によって 移植成績は改善している.
 2001年に米国から,fludarabine(Flu),cyclophosphamide(Cy)による骨髄非破壊的前処置を用いた, 末梢血幹細胞移植10例の結果が報告された1.Flu,Cy,抗胸腺細胞グロブリン(ATG)処置後, HLA一致同胞からT細胞除去末梢血幹細胞が移植された.3例が死亡,1例が拒絶という結果であった.
 2002年には欧州から27症例の移植結果が報告された2.移植時点で活動性感染症を有していた群が ハイリスクであったこと,busulfan(Bu)とCyを主体とした骨髄破壊的前処置を用い,23例生存と良好な 成績が得られたことが示された.
 われわれは1992年から2006年までに日本国内で造血幹細胞移植が行われた症例のうち,調査できた 32例について集計した.結果は,初回移植で6例が死亡,3例が拒絶され,拒絶3例は再移植を受け1例が 死亡した.合計生存25例,死亡7例であった(生存率78.1%).
 移植時年齢で見ると,死亡例・拒絶例はいずれも14歳未満であり,15歳以上では全員生存していた. 移植時点で難治性感染症を有していた群では,死亡,拒絶例が多く,成績不良であった. 移植細胞は32例中26例に骨髄が用いられ,HLA一致血縁ドナーとHLA一致非血縁ドナーはいずれも 成績良好であったが,HLA不一致ドナーでは成績不良であった.前処置法については,Bu/Cyは12例中 4例が感染症や移植関連合併症により死亡し,Flu/Cyは14例全員生存したが,移植後混合キメラと なりドナーリンパ球輸注(DLI)を要した症例が多かった(7/14).中には急性GVHDや汎血球減少症を きたした症例も認められた.
 生存した25例のquality of life(Karnofsky performance status scale)は21名が100%,全員70%以上であった.

 以上の2006年までの国内成績をもとに,厚生労働省「原発性免疫不全症候群に関する調査研究班」にて, 本ガイドライン(案)を作成した.さらに2008年11月に国内主要移植施設の移植担当者が参加した 「慢性肉芽腫症移植検討会議」で,検討を重ねたものを今回呈示する.
 本案はあくまで2009年時点のものであり,今後より安全で有効性の高い移植ガイドラインに改訂 されていくことを前提としている.そのためには,CGD移植症例の蓄積は今後も欠かせない事項である.  移植を予定している施設の担当医の先生には,移植症例を登録していただき,移植に関する情報収集, データ解析にご協力いただきたい.将来的には,多施設共同研究による前方視的調査研究のもとに, 共通プロトコールを作成し,CGD移植経験の豊かな専門施設で移植実施する体制を整えることが望ましいと思われる.

 なおCGD移植症例登録については,事務局にお問い合わせください.

移植ガイドライン作成担当:宮崎大学医学部小児科 水上智之 布井博幸
広島大学医学部小児科 中村和洋 小林正夫
京都大学医学部小児科 足立壮一 中畑龍俊

事務局:広島大学医学部小児科学教室


1.慢性肉芽腫症の診断

 慢性肉芽腫症の診断は,重症細菌または真菌感染症を反復する病歴,および活性酸素産生能(好中球殺菌能)欠損より 可能である.多くの症例は,乳児期より皮膚化膿症,頚部リンパ節炎,肛門周囲膿瘍,中耳炎,肺炎などを反復し, 抗生物質投与にもかかわらず難治性である.細菌感染症(ブドウ球菌,大腸菌,肺炎桿菌など), 真菌感染症(アスペルギルスなど)が多い.
 活性酸素産生能欠損は,ニトロブルー・テトラゾリウム(NBT)還元能が簡便である.好中球殺菌能測定は, 検査会社に依頼可能である.
 遺伝子診断および病型分類(欠損蛋白の同定)は,Primary Immunodeficiency Database in Japan(PIDJ)を 介して,専門施設に依頼できる.遺伝カウンセリングに必要な情報であり,移植前に実施しておくほうがよい. 詳細はPIDJのホームページ(http://pidj.rcai.riken.jp)を参照していただきたい.

2.移植適応
 慢性肉芽腫症はスペクトラムの広い疾患であり,重症度は症例によって大きく異なる. 一般に,伴性遺伝のgp91phox欠損型は,常染色体劣性遺伝のp22phox,p47 phox,p67phox欠損型より重症で, 予後不良である.ところがgp91phox欠損型でも重症感染症を反復する症例から,重症感染症に一~数度罹患した のち反復しない軽症例まで存在する.移植適応の判定は,個々の症例の重症度を十分見極めて行うべきである.

 移植適応の基準は定まっていないが,以下は移植適応と考えられる.
 1) 重症感染症を反復する,かつ
 2) HLA一致の血縁または非血縁ドナーがいる

 個々の症例で感染症の重症度,頻度ならびにその年齢が異なるため,移植至適年齢を定めることは難しい, ただし,国内移植成績では低年齢(15歳未満)がリスク因子であった.
 年齢を経ると感染症を反復し,リスク因子である肺感染症罹患頻度も増えること,15歳以上では 慢性GVHDの危険性も高まることより,低年齢(10歳未満)での移植を推奨する意見もある.
 移植時点で重症感染症が残存している症例はリスク因子であるため,抗生物質,抗真菌剤を投与して, 移植までに可能な限り炎症を鎮静させておく.

3.ドナー
 移植細胞は骨髄を第一選択とする.以下のドナーからの移植は成績良好である.
HLA一致血縁者骨髄
HLA一致非血縁者骨髄
 これが得られない場合にはHLADRB1の遺伝子型一座不一致非血縁ドナー,臍帯血を考慮するが, 国内CGD移植ではまだ症例が少なく,選択には十分慎重を期する.
 HLA不一致骨髄は拒絶される症例が多い.HLA1座不一致血縁はHLA一致非血縁と同等とされるが, 症例が少なく,国内移植成績も良好とは言えない(3例中1例生存,2例死亡)ため,慎重に判断する.

4. 移植前準備
 ・画像診断
  移植時点での難治性感染症病変の残存はリスク因子であるため,移植前に画像診断を行い,感染症病変がないか確認しておく.病巣検出には径5mm程度でも検出できるPET-CTが望ましい.Gaシンチでもよいが,検出感度は約1cmでPET-CTには劣る.
 ・予防内服
  ST合剤および抗真菌剤(itraconazoleなど).

5.移植前処置
 本ガイドライン(案)では,生着までの期間が短く,国内で移植成功率の高かった Fluベースのreduced intensity stem cell transplantation (RIST)前処置を推奨する.
 1990年代はBu/Cyによる骨髄破壊的前処置が用いられていたが,生着前感染症や移植関連合併症による死亡や, Buの内分泌学的障害,肺障害が問題となった.しかしFlu/Cy/low dose TBI前処置では混合キメラとなり, DLIを要した症例が多い点が問題となった.
 以上によりFlu主体の前処置に骨髄抑制を強化したものが必要と考えられたので, 骨髄抑制と免疫抑制の強さを鑑みた下記のような前処置を提案する.

 ・Fludarabine: 25 mg/m2 × 4 days (Day -6 ~ -3)
 ・Melphalan: 40 mg/m2 ×2 days or 80 mg/m2 × 1 day (Day -2)
  + (Cyclophosphamide: 25 mg/kg or 750 mg/m2 × 4 days, Day -6 ~ -3)
 ・Low dose TBI: 3-4 Gy (Day -7)
+ (ATG)

 Cyについては,心毒性の危険性がある一方で,CGD患者では感染症反復によってリンパ球が活性化しているため, 免疫抑制目的でCyが必要とする意見もある.とくに高年齢では感染反復例が多く,Cyによる免疫抑制が望ましいとも考えられる.
 国内移植成績において,Low dose TBI (3-4Gy) 実施例は完全ドナー型に誘導できた(DLI実施例も含む)のに対し, 無照射またはTLIでは拒絶または混合キメラ(DLI実施例も含む)が多かった.Low dose TBIは必要と考えられる. Low dose TBIの晩期障害,毒性については十分な評価は成されていないが,再生不良性貧血の移植成績も含め, TBI施行例の方が拒絶,または混合キメラになる頻度が少ないと思われる。
 ATGについては非血縁者ドナーの場合にGVHD予防として有効であるが,移植後のウイルス感染 (サイトメガロウイルス感染症,EBVによる移植後リンパ増殖疾患など)には十分な注意が必要である.
 IFNγ投与例は移植1-2ヶ月前にIFNγを中止した方がよい.

6. GVHD予防
 CyAあるいはFK + short MTXを用いる.CyAとFKの比較については今後の検討が必要であるが,非血縁ドナーの場合にはFKが用いられている.

7. 混合キメラへの対処
 移植後,約30日ごとにキメリズムを測定する.
 ドナーのリンパ球キメリズムが60%を下回った場合には,速やかに免疫抑制剤を減量し, DLIの実施を考慮する.DLIはCD3陽性細胞として2-5 x 106/kg/回から暫時増加し, キメリズムの状況を確認しながら1-2 x 107/kg/回までとする.GVHDには十分留意しながら施行する.

8. 移植後の評価
・好中球殺菌能
   フローサイトメトリーによる活性酸素産生能測定(DHR-123)
・ キメリズム解析(好中球,リンパ球)
   異性間X/Y染色体解析(FISH)
   マイクロサテライトマーカー解析(STR,VNTR)
   フローサイトメトリーによる好中球gp91phox発現解析(7D5抗体)
・ 画像診断(CT,MRI,超音波,Gaシンチ,PET-CTなど)
   移植時残存病変(膿瘍,肉芽腫など)の消失確認
・ 一般血液検査,生化学検査
・ ウイルス検査(CMVなど)
・ 内分泌学的検査(成長障害,不妊など)
・ 二次癌の検索

9. 検討すべき課題
・ 多施設共同研究を前提とした共通移植プロトコールの作成
・ 移植適応年齢の決定
  現時点では移植至適年齢は定まっていないが,移植に適した時期を調査するため,CGD自然歴の調査が行われる予定である.
  ヨーロッパでは5歳以上を対象としている.
・ 前処置法のさらなる検討
  Bu16, low dose TBIの長期での副作用の検討
・ 骨髄移植と遺伝子治療の適応判定基準作成
・ GVHD治療法の検討
・ 混合キメラ状態に対する治療法


1Horwitz ME, Barrett AJ, Brown MR, et al: Treatment of chronic granulomatous disease with nonmyeloablative conditioning and a T-cell-depleted hematopoietic allograft. N Engl J Med. 344:881-8, 2001
2Seger RA, Gungor T, Belohradsky BH, et al: Treatment of chronic granulomatous disease with myeloablative conditioning and an unmodified hemopoietic allograft: a survey of the European experience, 1985-2000. Blood. 100:4344-50, 2002