Please use JavaScript compliant browser ! PIDJ 原発性免疫不全症候群 一般の方へ

代表的な疾患の臨床像と診断基準

1)複合免疫不全症

(1) 重症複合免疫不全症(SCID)
病因: T細胞の発生障害によるT細胞数の減少と免疫グロブリン産生不全を特徴とし、 約半数はX連鎖であり、その原因はIL-2、-4、-7、-9、-15のレセプターに共通する γc鎖の遺伝子異常による。常染色体劣性のものとしてγc鎖からのシグナルを下流に 伝えるチロシンキナーゼであるJAK3ならびにIL-7レセプターα鎖の遺伝子異常によるものがある。 またT細胞、B細胞の抗原受容体の遺伝子再構成に関わる分子であるRAG-1/RAG-2およびArtemisの遺伝子異常によるSCIDも存在する。RAG-1/RAG-2のミスセンス変異でその活性が残存するものではOmenn症候群と呼ばれる特殊な病型をとる。

臨床症状:生後間もなくより種々の微生物による感染症に罹患し、犬吠様の咳嗽、難治性下痢、頑固な鵞口瘡がしばしば認められる。ニューモシスチス・カリニやサイトメガロウイルスによる間質性肺炎や麻疹による巨細胞性拝見も稀ならず存在し、致死的となる。

検査成績:T細胞数の減少、PHAに対するリンパ球増殖反応の低下、血清免疫グロブリン値の低下が見られる。γc鎖およびJAK3の遺伝子異常ではT細胞およびNK 細胞は欠損するが、B細胞数は正常に存在し、RAGの遺伝子異常ではNK細胞は存在するが、T細胞およびB細胞は欠損する。またIL-7レセプターα鎖の遺伝子異常ではT細胞のみ欠損する。

診断: 生後間もなくより高度の易感染性がみられ、検査成績上細胞性免疫ならびに液性免疫の異常が認められる場合にはSCIDを疑う。遺伝形式、B細胞やNK細胞の有無より病因を類推し、遺伝子解析を行い、確定診断を行う。γc鎖の異常はフローサイトメトリーにてB細胞上のγc鎖の発現を調べることによって診断可能である。

合併症: 輸血などで他人のリンパ球が移入さらると移植片宿主反応が生じ、致命的となることがある。

予後: 造血幹細胞移植などによる根本的治療が行われない限り、重症感染症のため生後2歳までに死亡する。

治療: 造血幹細胞移植の適応である。X連鎖SCIDで遺伝子治療の成功例がある。

(2) ADA欠損症
病因:プリン代謝酵素であるADAはアデノシンをイノシンに変換する酵素であり、これが欠損すると細胞内のアデノシンの蓄積を招き、リンパ球に対して細胞毒として働く。 臨床症状ならびに検査成績:T細胞およびB細胞の欠損するSCIDに準じる。

診断:赤血球中のADA活性の測定による。ADA遺伝子解析も可能である。

治療: 造血幹細胞移植が基本的治療であるが、ドナーが得られない場合もある。ウシ由来ADAの定期的筋注も効果がある。遺伝子治療も一部の患者では成功している。


2) 抗体産生不全を主とする免疫不全症

(1) X連鎖無γ-グロブリン血症(XLA)
病因:X染色体上のBTK遺伝子異常によっておこる。骨髄におけるプロB細胞からプレB細胞への分化が障害され、末梢血B細胞が欠損し、抗体産生不全となる。 臨床症状:男児にのみ発症する。母親由来の抗体が消失する生後数ヵ月より化膿菌に易感染性を示すようになる。一般ウイルスは通常の経過をとるが、ポリオなどのエンテロウイルスは重症化する。 検査成績:血清免疫グロブリン値はすべてのクラスで低下する。末梢血B細胞数は2%以下に著減するが、T細胞数は正常である。 診断:末梢血B細胞が欠損し、血清免疫グロブリンの低下を認めた男児ではまずXLAを考える。確定診断はBTK蛋白の欠損またはBTK遺伝子変異の同定による。 合併症:感染のコントールが不十分だと慢性呼吸器感染が高頻度に合併する。 予後:早期から十分な治療を行えば健常人と変わらない生活を送ることができる。 治療:静注用免疫グロブリン製剤を3~4週毎に200~400mg/kg補充する。感染のコントロールに応じて適宜増量する。

(2) 高IgM症候群
病因:免疫グロブリンのクラススイッチ機構に欠陥があり、IgMを産生できるが、IgG、IgA、IgEを産生できない。多くはX連鎖で男児に発症するが、一部は常染色体劣性遺伝形式である。X連鎖のものは活性化T細胞上のCD40リガンド(CD154)の遺伝子異常によって、CD40シグナルを介したB細胞のクラススイッチがおこらない。常染色体劣性のものの一部はAID(activation-induced cytidine deaminase)の異常による。臨床症状:XLAと同じく化膿菌の易感染性がみられるが、細胞性免疫不全を反映してカリニ肺炎に罹患しやすい。 検査成績:血清IgMは正常または高値をとるが、血清IgG、IgA、IgEは低値を示す。一部の症例では好中球減少を伴う。 診断:血清免疫グロブリン値のプロファイルによって診断するが、X連鎖では活性化T細胞におけるCD154分子の表出障害をフローサイトメトリーにて調べる。確定診断はCD154またはAID遺伝子解析による。 治療:免疫グロブリン置換療法の適応である。カリニ肺炎の治療・予防としてST合剤の内服が必要である。ドナーがいれば造血幹細胞移植も有用である。

(3) IgA欠損症
病因:IgMやIgGは産生しうるが、IgAのみ産生できない状態である。IgAへのクラススイッチの異常などが考えられている。 臨床症状:無症状のものが多い。IgG2欠損症を合併することが多く、その場合は易感染性を示す。本疾患患者では輸血や免疫グロブリン製剤などのIgAを含む製剤を投与するとアナフィラキシーを生ずるので注意が必要である。 検査成績:血清のIgGやIgM値は正常であるが、IgAのみ低値である。

(4) IgGサブクラス欠損症
病因:IgGには4つのサブクラスがあり、IgG1が60%、IgG2が30%を占める。ウイルスや細胞外毒素などの蛋白に対する抗体は主にIgG1に属し、細菌表面の多糖類に対する抗体は主にIgG2に属する。Cg2遺伝子異常によるIgG2欠損症が1例報告されている。 臨床症状:IgG2欠損症では肺炎球菌やインフルエンザ桿菌による中耳炎や下気道炎の反復が認められる。 検査成績:血清免疫グロブリン値は正常であるが、IgGサブクラス値の低下を認める。 治療:易感染性が認められる場合には免疫グロブリン置換療法を行う。

(5) 分類不能型免疫不全症(CVID)
病因:成人領域で最も多くみられる低γ-グロブリン血症である。B細胞数が正常なものもあれば低下しているものもあり、一部ではT細胞機能異常による抗体産生不全が示唆されている。 臨床症状:化膿菌に対する易感染性を示す。自己免疫疾患や悪性腫瘍の合併が多い。 検査成績:血清免疫グロブリン値の低下を認める。末梢血B細胞数は正常または低下している。 治療:免疫グロブリン置換療法を行う。


3) 特徴的な症候を伴う免疫不全症

(1)Wiskott-Aldrich症候群(WAS)
病因:X連鎖遺伝形式をとり、血小板減少と湿疹を合併する免疫不全症である。細胞内骨格の機能やシグナル伝達に関わるとされるWASP遺伝子の異常による。X連鎖血小板減少症は同じWASP遺伝子異常による。 臨床症状:血小板減少による出血傾向とアトピー性皮膚炎要の湿疹があり、細菌、真菌、ウイルスに対する易感染性を認める。 検査成績:血小板数は減少し、正常に比べてサイズも小さい。細胞性免疫の異常を伴うことが多く、血清IgMの低値もしばしばである。血清IgE値は高値をとることが多い。 診断:男児で、血小板減少、湿疹、免疫不全の三徴が揃えば診断は容易であるが、すべてが揃わない場合も時々ある。WASP蛋白の低下または遺伝子解析により確定診断する。 合併症:悪性リンパ腫の合併が多い。 予後:根本的治療が行われないと出血、悪性腫瘍の合併、重症感染症のため致死的となる。 治療:摘脾は血小板減少に有効である。根本的治療として造血幹細胞移植がある。

(2) Ataxia telangiectasia
病因:上下気道の易感染性に加えて眼球結膜・皮膚の毛細血管拡張がみられ、小脳性運動失調を呈する。常染色体劣性遺伝形式をとり、シグナル伝達や細胞回転、DNA修復などに関係するATM遺伝子の異常よる。 臨床症状:上下気道の感染が反復し遷延する。1歳過ぎより徐々に毛細血管拡張症や運動失調を認める。 検査成績:T細胞数の減少、PHAに対するリンパ球増殖反応の低下を認め、血清IgG2、IgG4、IgE、IgAの低値を認める。α-フェトプロテインの増加や染色体の断裂、ギャップなどもしばしばみられる。 診断:副鼻腔炎や肺炎の反復に加えて毛細血管拡張症と運動失調を合併していれば診断可能であるが、乳時期には易感染性のみで診断は困難である。確定診断はATM遺伝子解析による。 合併症;悪性腫瘍の合併が多い。また気管支拡張症の合併も多い。 予後:悪性腫瘍や気道感染により小児期に死亡することが多い。 治療:感染予防のために投薬や免疫グロブリン投与が有効であるが、根本的治療はない。

(3) DiGeorge症候群
 病因:胸腺と副甲状腺は胎生6~8週に第三-四鰓嚢上皮から発生するが、この鰓器官の発生障害によっておこる。胸腺と副甲状腺の発生障害によりそれぞれT細胞数の減少、低Ca血症が生じる。顔面の異常、大血管を中心とする心奇形も合併する。染色体22q11領域の欠失による。 臨床症状:生後間もなくからのテタニー症状、心奇形による循環器障害症状がある。T細胞機能不全による易感染性は胸腺の低形成の程度によってさまざまである。 診断:T細胞数の減少があり、低Ca血症や心奇形、顔面異常の合併より診断される。FISH(fluorescence in situ hybridization)法による21q11.2の欠失の証明も有用である。 治療:胎児胸腺細胞の移植が行われることがある。


4) 食細胞機能異常症

(1) 慢性肉芽腫症(CGD)
病因:食細胞における活性酸素産生障害のために貪食した微生物を殺菌できない疾患であり、スーパーオキサイド(O2-)産生に関わるNADPHオキシダーゼの異常による。NADPHオキシダーゼを構成するgp91-phox、p22-phox、p47-phox、p67-phox、rac2遺伝子異常による病型が存在する。約2/3はX連鎖のgp91-phox欠損によるが、その他は常染色体劣性遺伝形式である。 臨床症状:カタラーゼ陰性の化膿菌(ブドウ球菌や大腸菌など)による皮膚、リンパ節、肺、肝における感染で、膿瘍形成や肉芽腫形成を伴いやすい。カンジダやアスペルギルスによる真菌感染も多くみられる。 検査成績ならびに診断:好中球のNBT色素還元能試験陰性、化学発光の欠如、活性酸素酸素の産生能低下が見られる。gp91-、p22-、p47-、p67-phoxの各蛋白の欠損ならびに遺伝子異常によって病型診断がなされる。 予後:軽症例では成人にまで生存するが、アスペルギルス感染が致死的となる。 治療:ST合剤の予防内服は効果がある。IFN-γの投与も一部では有効である。根治的治療としては造血幹細胞移植が必要である。


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