Please use JavaScript compliant browser ! PIDJ 原発性免疫不全症候群 一般の方へ

感染予防対策と治療

原発性免疫不全症候群は免疫系の欠陥を主病態とする先天性あるいは遺伝性の疾患群であり、 感染に対する防御機構の破綻のため易感染性が生ずる。免疫系はリンパ球による特異的免疫機構と、 食細胞や補体などが関与する非特異的免疫機構とから成り立っている。 特異的免疫機構を担う主要細胞には、Bリンパ球とTリンパ球とがあり、これらの障害によって、 抗体欠乏や細胞性免疫の異常が生ずる。さらに食細胞機能不全や補体欠損など、非特異的免疫機構の 破綻によって細菌などの反復感染が発症しやすい。原発性免疫不全症候群はこのように 多種多様の疾患群であり、その重症度も疾患によりかなり異なる。

I.感染の特徴

易感染性が主な臨床症状であり,感染の特徴がみられる.感染は回数が多く重症化しやすい. また,難治性であり遷延化しやすく,通常では病原となりえないような弱毒の病原体による 感染(日和見感染)がみられる.
 易感染性が出現する時期は疾患によって異なる.抗体欠乏を主徴とする免疫不全症では, 経胎盤的に母から移行したIgGが消失する6ヶ月ころから現われる. 一方,複合免疫不全症や好中球機能不全症では新生児期から何らかの症状が出現する.
 感染症としては,肺炎などの呼吸器感染,中耳炎,髄膜炎,敗血症,下痢をともなう腸炎などが多く,T細胞機能が低下しているものでは水痘や麻疹が重症化しやすい.

II. 一般的な管理

感染に罹りやすいので,感染防御のために,患者や家族が病気についてよく理解しておく必要がある.
規則正しい無理のない生活,うがいや歯磨きの励行,感染予防薬の服用など医師の指示を必ず守ること, などを指導する.感染が急速に進行し,重症化するので感染症患者との接触に気をつけるとともに, 症状が出現したら速やかに主治医に連絡する.
また,感染は治りにくいので,患者や家族には治癒したようにみえても勝手に治療を中断してはならない. また,教師との情報交換も必要である.病気の説明とともに,学校生活の指導に関する適切なアドバイスが望まれる.

III.一般的な感染予防

適切な感染予防に心がける.化膿性感染を頻回に反復する場合はST合剤(0.05 - 0.1g/kg/日,分二)の予防内服を好中球減少などの副作用に注意しながら行う.疾患によっては抗真菌薬の予防内服も行っている.慢性肉芽腫症患者においてはイトリコナゾールの投与がよく行われている.イソジンガーグルなどによる含嗽の励行も効果的である.
 抗体欠乏を主徴とする免疫不全症には免疫グロブリン補充療法が著効する.静注用免疫グロブリン製剤を200mg/kg/2~4週くらいで投与し,血清IgG値をtrough levelで200mg/dl以上に保持することが基本であるが,疾患・重症度・臨床効果などから投与量や投与間隔を調整する.

IV. 感染症の治療

感染症に対して早期からの適切な治療が肝要である. 細菌感染の重症化が懸念されたら,まず細菌培養を行い,抗生物質の点滴静注を開始する. 慢性肉芽腫症では細胞組織への移行性の高いホスミシンやカルバペネム系を加えてみる. T細胞機能不全では,水痘や単純ヘルペスが重症化するので,早めにアシクロビルなどの 抗ウイルス薬を投与する.また,サイトメガロウイルス感染症が疑われたらガンシクロビルの投与を開始する.

V. サイトカイン療法

好中球減少症に対しては顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の投与が,慢性肉芽腫症に対してはインターフェロン-γ(IFN-γ)の投与が試みられている.好中球減少のため重症化した感染症に対し,G-CSFはきわめて有効なことが多いが,長期投与に関しては副作用の問題もあり考慮を要する.作用機序に関しては充分に解明されていないが,一部の慢性肉芽腫症患者でIFN-γの予防投与により感染症の減少が認められている.

VI. 骨髄移植

骨髄移植は重症複合免疫不全症(SCID)をはじめ,多くの疾患で試みられている.SCIDにおいては骨髄移植が第一選択である.特にHLA一致の同胞からは原則として前処置なしで移植でき,早期にTおよびB細胞の機能構築が可能である.しかし,HLA一致の同胞が得られない場合は,骨髄移植の成績は満足できるものではないため,ハプロタイプからのCD34陽性細胞移植,臍帯血移植,非血縁者からの移植などの推進が期待される.
 その他,Wiskott-Aldrich症候群,Chediak-Higashi症候群,DiGeorge症候群,Kostmann型好中球減少症などで成功例が増加している.

VII.遺伝子治療

ADA欠損症では遺伝子治療が行われており,本邦においてもその有効性が証明されている. 慢性肉芽腫症でHLA一致の同胞がいない場合に,非血縁者からの移植は不良であり,遺伝子治療が期待される.
 原発性免疫不全症候群の予後は,適切な治療なしでは乳児期に死亡するものから,比較的軽症で経過するものなど疾患によってさまざまである.近年,分子生物学の進歩によって原発性免疫不全症候群の責任遺伝子が解明され,その蛋白や遺伝子を用いた正確な診断法が開発されてきている.治療面においても,抗体欠乏をきたす免疫不全症における免疫グロブリン補充療法のように,感染症予防が効果的にできるようになった.しかし,長期生存に伴い悪性腫瘍などの合併が問題となってきている.さらに,骨髄移植や遺伝子治療などによって完治も期待できるようになった.しかし,多くの患者にとってもっとも重要なことは,日常生活においてできるだけ感染に罹患しないように本人や家族が常に心がけ,最善の治療が望めるようにすることと思われる.